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'Expanded' by Nicole Lenzi

Brent Fogt / Hertson, 2011 / 紙にインク、グラファイト / 16 x 14.5 inches

私が非伝統的なドローイングに興味を持つようになった始まりは「エクスペリメンタル・ドローイング(Experimental Drawing」という専攻過程に在籍中のことで、卒業後も継続して取り組んでいます。「Expanded 」というブログは私が現在住んでいるアメリカ合衆国はボルティモア市・ワシントンDCの周辺地区、そして世界中で起こっている多様なドローイングの実践を紹介することにつとめています。これはドローイングの可能性について考えるためのフレームワークです。また、アーティスト、教育関係者やその他様々な組織が参照しあい、対話を生み出しうる空間を作り出すことを目的としてもいます。

2010年、コロラド大学のクラーラ・ハットンギャラリー(Clara Hatton Gallery)で行われた「Drawing in the Expanded Field(拡張領域におけるドローイング)」という展覧会に参加しました。リサーチしていくうちに、タイトルにもある“expanded”という単語は多くのコンテンポラリードローイングの展示や大学のコースで使用されている用語であることがわかりました。それでその5年後、このブログのタイトルにしたというわけです。

歴史を遡れば、ドローイングは絵画や彫刻の創作の見通しを立てる手段として存在していましたが時が経つにつれ、ドローイングそれ自体のうちに、それに属する芸術形式として発展しました。伝統的なドローイングは主題の代理表象に与かります。それに対し、非伝統的なドローイングは戦略を用いてコンセプトを展開させます。

Gelah Penn / Situations, Detail 2017 / ビニールシート, 気泡ゴム, レンズ状ビニール, Denril, ビニール製ゴミ袋, ポリエチレンシート, ステンレス製流し用品, ブラックアルミフォイル, 蚊除けネット, ラテックス, シリコンチューブ, 金属製の棒, ステイプル, アクリル絵具, ゴムボール, 椅子の布張り, T型ピン / 132 x 432 x 365 inches

Expanded」に登場するアーティスト達はしばしばお互いに対照的な差異を際立たせもするものの、彼らのコアにあるものは同じです。彼らは皆、慣習的ではないやり方で創作をしており、ドローイングの見方や経験の仕方の境界をうごかしています。これまでに参加してくれた作家達は概して3D/インスタレーション、システム、プロセス、パフォーマンス、写真、テクノロジー、実験的なマークメイキング(*訳注1)などに取り組んだ作品を制作しています。ここに寄稿を頂いているコントリビューターのBrent Fogtは気候条件を用いてドローイングを生み出しています。Gelah Pennのインスタレーションはドローイングという言語を(数カ国の言語を同時に扱うように)建築的空間に拡張しています。

Monica Supe / Endlos, 2016 / 7, 8, 9, 11 (endless 7, 8, 9, 11) 2016, かぎ針編みワイヤー (10 x 10 x 10 cm – 14 x 14 x 14 cm)

もっともよく取り上げている作品はコンセプチュアルな裏付けに基づいていて、通常とはもっともかけ離れた方法で哲学とスタイルを組み合わせたものです。Monica Supeの3Dとパフォーマンス作品において、アーティストは”制作過程を視覚化する”手仕事に取り組みます。編まれた線は、時間を可視化するのです。人はその活動がいつ始まるのか、そしてそれは実際に終わるのかの問いを立てます。Expandedにおけるアーティストの作品は、そこで何が起こりうるのかを見つめることへ開かれてあるものなのです。

私はよく「エクスペリメンタル・ドローイング」コースが、身近な主題や、コントリビューター達が彼ら自身の実践に一生懸命に向きあうあり方に対する自分の興味に火をつけたのだと考えます。私の教授のHerb Oldsは「ドローイングとは言語である。我々はその言語を生かし続けなければならない。」と教室の前でよく語っていました。言語は幾多の形態をとって存在してきたものなのです。

「Expanded」ブログリンク:
http://expandeddrawingpractices.blogspot.com/

執筆:ニコル・レンジ 2017年

プロフィール:ニコル・レンジ (Nicole Lenzi)の非伝統的なドローイングへの関心は、カーネギーメロン大学での「エクスペリメンタル・ドローイング(Experimental Drawing)」という専攻過程の在籍中に始まる。その後、メリーランドインスティテュートカレッジオブアートを2007年修了。インスタレーション、3D、レリーフ、平面といった多次元的アプローチで制作を行う。近年の展覧会に「Concept and Time and Space」CICA Museum(ソウル、韓国)、「Drawing Lines Across Mediums」Site: Brooklyn(NY、アメリカ)などがある。レンジはボルチモア(メリーランド州)を拠点に活動し、コンテンポラリードローイングに関するブログ「Expanded」を2015年より継続している。


翻訳:水野妙

(*訳注1)
マーク・メイキング:mark making
「Mark」の訳語としては「しるし:印・記・徴・験・標」と日本語では様々なアスペクトがある。ここでは「しるし」を描くことが「Making:つくる」ことの終わりではなくそこから引き出す行為として、Drawingの営為に通じるものとして関係している。一回かぎり記されたものが、未だ来ぬものを兆す徴となるように、開くこと。
点、筆触、ストローク、テクスチャー、波形、反復etc。手の運動の痕跡からその固有の刻印をほどいて、言語にも匹敵するような線にまつわる文法や表現方法のパターンを取り出そうとすること。その際、これまでの認識や様々なカテゴリーの更新の冒険に賭けるような試みが現在期待される。

例):テート・モダンの試み
作品の鑑賞教育の拡張的なラーニングプログラムとして、オンラインでフリーにアクセスできるリソースを提供している。絵画の理解の枠に限らず、人の感情や3D空間、音との変換関係など多様な応用可能性が試みられている。
https://www.thoughtco.com/how-does-mark-making-affect-your-paintings-2577630

鈴木ヒラク/アーティスト。1978年生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科修了後、シドニー、サンパウロ、ロンドン、ニューヨーク、ベルリンなどの各地で滞在制作を行う。ドローイングを核として、平面/インスタレーション/彫刻/パフォーマンス/映像など多岐に渡る制作を展開。著書に『GENGA』などがある。現在、東京芸術大学大学院美術研究科非常勤講師。