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Signals #02 ダイアナ・ルーカス

 

“Sings”, 50x65cm, sumi-e paper 80gsm, dragon’s blood ink and brush photo © Dinis Santos
“Bleeds”, 50x65cm, sumi-e paper 80gsm, dragon’s blood ink and brush photo © Dinis Santos

「歌と血」ダイアナ・ルーカス
50x65cm、80gsmの和紙、龍血樹の樹液、筆
photo © Dinis Santos

これら2つのドローイングは、ポルトガルのマカロネシア地方(マデイラ、アソレス、カナリア、カボヴェルデ)に固有の「龍血樹」:ドラゴンツリー/Dragoeiro (Dracaena Draco)と呼ばれる木の樹液、「ドラゴンの血」で描かれた。この樹液は、マデイラ島開拓の初期に開発・商品化され、医療目的や赤色染料として、16世紀のヨーロッパで非常に貴重で評価の高い資源となった。龍血樹は、カナリア諸島では異教のカルトツリーと見なされていたり、ギリシャ神話にも登場する。私はこのインクが孕んでいる有機的な起源と強烈な振動に、心を動かされる。ドローイングの1つ(「歌」)では、2つの要素の出会いがある。私はまず最初の線を描き、その線には触れないように2番目の線を描いた。しかし、しばらくしてからもう一度ドローイングを見ると、インクは紙を通して拡大し続け、この繊細な出会いを引き起こしていた。私はこれまで、ほとんど絶対に触れたり交差したりすることのない2つの要素だけで、ドローイングを描いてきた。2つの要素の関係性におけるダンス・力学・繊細さや、描画/インクの存在によって浮かび上がる全ての空間に、とても関心があるのだ。たとえばテーブルとテーブルの脚など、2つのものがどのように組み合わされるかを見るのも大好きだ。2つのものを再結合するための非常にシンプルで魔法のような方法があると思っている。もうひとつのドローイング(「血」)は、「歌」における出会いの点の拡大で、それが紙の全面を占めている。絵のタイトルは、私が心から尊敬しているポルトガルの詩人、Herberto Helderの詩「My Head Shakes」から引用した。

今-ここ
私は現在、両親が生まれた島、マデイラ島(ポルトガル)にいる。私はここに来ると、いつも人生との大きな再会を感じる。土地やその他の要素、特に水とのつながりは非常に強く、直接的だ。”星”は、私が普段住んで働いているポルトではなく、今ここにいることを望んでいたのだろう。今という瞬間は、私たちの人生と歴史の中で奇妙な瞬間であり、かつて私たちが想像して望んでいたものとは異なる未来でもある。時に、それに対処し理解することは難しい。だから、今私は毎日生きていることを意識し、この場の空気のリズムに従い、私に平静をもたらすシンプルで必然性のある繰り返しの中で暮らしている。
このパンデミックが始まった当初は、以前のように判断ができず、自分の考えやヴィジョン、感情に向き合うのに苦しんだ。しばらくして、私はカオスと苦しみを受け入れたと感じ、今は何をするべきか、何が必要かを、より注意深く自分の体に聞くことになった。そうして根に近づいた気がする。人生はシンプルだし、それを忘れてはいけないのだ。私は、いずれすぐにやってくる死と不在に向き合うことを学ばなければと思っていたから、私にとっての「未来」はいつも奇妙な場所だった。しかし今は、今可能なことをやるだけで、毎日に喜びがある。もちろんいい日もそうでない日もあるが、太陽と共に毎日はやって来るし、私が生きていること、そのことへの感謝というシグナルがある。自然に囲まれ、あらゆる場所からのシンプルな音や動きで記憶が呼び覚まされることにも感謝している。よく私は、友人と笑い合ったことを思い出しては、私がここで感じている幸福を本当に共有したいと思っている。
今ここで私の母と一緒にいることは、最大の幸運であり贈り物だと思う。一緒にいても離れていても、ずっとそうだったのだ。
ダイアナ・ルーカス 2020年4月24日

Dayana Lucas
ダイアナ・ルーカスは1987年、ベネズエラのカラカスに生まれた。2003年に両親の故郷であるポルトガル、マデイラ島のポンタドゥソルに移り住み、2006年からはポルト大学芸術学科でコミュニケーションデザインを学ぶ。2010年に”Oficina Arara”を共同設立し、デザイナー、アーティスト、コンサルタントとして定期的にSOOPA collectiveとコラボレーションを行っている。2019年にアーティストブックなどを出版するレーベルOrinocoを立ち上げた。
彼女はドローイングを通した実践的なリサーチを行っており、個展やグループ展で発表している。グラフィックデザイナーとしての仕事、音楽家や美術作家との協働も多く、これまでFundação Calouste Gulbenkian、 Fundação de Serralves、Câmara Municipal do Porto、Universidade do Porto、Galeria Gabinete、PORTA33などのポルトガルの文化施設で展示した。
www.dayanalucas.com