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線の気配 − ロナルド・ノールマン

無題,グワッシュ/鉛筆,32x24cm,1994年, “Ronald Noorman, Tekeningen,Drwaings, Zeichnungen”, page96からの抜粋

 

一晩中雪が降っていた。
前日に広野を渡ってきた雷鳥の足跡はすり消されてしまった。なぜ雷鳥がこの場所へ来て、うろうろとしていたのか今ではもう定かでない。此処で生まれて忠誠心から故郷に帰ってこようとしていたのか、あるいは新しい土地を求め初めて踏む地であったのか。想像するに大人の、それも雄のライチョウが、雪溶けまでそれほど時間がかからないことを日の長さから知ることができたので、それを伝えようとこの場所を調べに来ていたのではないだろうか。最後の雪が溶けるまで給餌・繁殖地の選択を始めない鳥は遅すぎます。突然、凍ったフィヨルドの氷が割れて落ちる音に驚いて、その雷鳥は飛び去ってしまった。幅10センチメートル、長さ数百メートルの氷の割れ目だけが、飛び去ったことを唯一暗示するものだった。

Ronald Noorman, Tekeningen,Drwaings, Zeichnungen, “Land-stealing” Tijs Goldschmidt, 12ページより抜粋

無題, 紙に木炭,鉛筆, 22 x 15 cm, 2014年, “Zeichnung der GegenwartⅡ, Arbeitsheft,Galerie Parterre Berlin”, 84ページからの抜粋
無題, 紙に木炭,21×29,7cm,2001年,“Ronald Noorman, Tekeningen,Drwaings, Zeichnungen”, page87からの抜粋
無題(M/D),木炭,32x24cm,1994年,“Ronald Noorman, Tekeningen,Drwaings, Zeichnungen”, page187からの抜粋

 

ノールマンの作品を見るとどんなに小さな紙片にも、そして擦り減った鉛筆から発せられるかすかな線にも、作者のその時々の思考の痕跡を伺うことができた。その線が具体的に何かの輪郭を認識する上でとても重要だとか、機能性を有するか否かとかが問題ではないのかもしれない。線は(昨年亡くなられた)作者の生きた痕跡そのものであり、気配を今に残していた。

 

2018年、ベルリン市営の美術館ギャラリー・パルテッレで開催された展覧会“Zeichnung der Gegenwart Ⅱ(現代のドローイングⅡ)”の展示風景の一部© Kazuki Nakahara

 


ロナルド・ノールマン

1951年、Hilversum(オランダ)に生まれた。
1974年〜1978年、アムステルダムの・リートフェルト学院で学んだ。
以降アムステルダムを拠点に、オランダ、ベルギー、ドイツを中心に作品を発表した
2018年、アムステルダムで亡くなった。

詳細
http://www.ronaldnoorman.nl/

中原一樹/アーティスト。1980年香川県生まれ。ベルリンを拠点に制作活動を続けている。2010年、ベルリン・ヴァイセンゼー美術大学修了、2011年に同大学にてマイスターシューラー取得。2013年、公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修制度によりロンドンで滞在制作。2017年、優れたドローイング、版画作家に贈られるクリスチーネ・ペルゼン賞をベルリニッシェ・ギャラリーより受賞。